教員紹介

荒磯 裕平

准教授 博士(理学)

研究者総覧

専門分野

構造生物学、ナノバイオサイエンス、生物化学

研究テーマ

  • ミトコンドリア生合成を制御する分子装置の精密構造とダイナミクス解析

研究内容

ミトコンドリアはエネルギー生産や代謝に関わり、細胞の機能において重要な役割を担っています。現在の医学では未だ病態の分からない疾患が数多くあり、新しい切り口から疾患メカニズムを読み解く手法が求められていますが、ミトコンドリアの恒常性維持機構の解明は、こうしたニーズに応え新しい医療技術につながる可能性があります。

当研究室では、クライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)による精密構造解析と高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を用いた動的構造解析を組み合わせ、ミトコンドリアタンパク質の持つ多彩な機能を1分子レベルで明らかにします(図1)。


図1 Cryo-EMとHS-AFMを組み合わせたタンパク質構造解析

さらに、得られた立体構造情報からin vitroでのタンパク質活性測定、細胞生物学解析、ゼブラフィッシュを用いた生理学解析を展開し、ミトコンドリアの生合成の仕組みや異常ミトコンドリアが生体に与える影響を研究しています(図2)。


図2 研究の進め方(構造解析→機能解析へ)

【構造解析の例】ミトコンドリアへのタンパク質輸送ゲートTOM複合体

TOM(Translocase of outer mitochondrial membrane)複合体はミトコンドリア外膜に存在するタンパク質搬入ゲートで、サイトゾルで合成された1000種類にも及ぶミトコンドリアタンパク質はTOM複合体を通ってミトコンドリアへ取り込まれます。私たちの研究グループは、Cryo-EMによってTOM複合体の精密構造を決定し、タンパク質の仕分け機構の一端を解明しました。現在は研究を発展させ、ナノメートルの空間分解能とミリ秒の時間分解能で動的構造解析が可能なHS-AFMによって、動作中のTOM複合体が多様なタンパク質を輸送する様子を1分子レベルのムービーとして撮影し、タンパク質輸送メカニズムの全貌解明を目指しています。

最近では、タンパク質輸送以外にもミトコンドリアの品質管理や形態制御、遺伝暗号翻訳にはたらくタンパク質複合体の構造解析を開始し、研究を拡大しています。


図3 構造解析の一例(TOM複合体)

これまでの研究業績

代表的な原著論文

  1. “Role of the TOM Complex in Protein Import into Mitochondria: Structural Views.”
    Araiso Y., Imai K., Endo T.
    Annu. Rev. Biochem., 91, p679-703 (2022)
  2. “Structural overview of the translocase of the mitochondrial outer membrane complex”
    ○Araiso Y*, Endo T., (責任著者)
    Biophys. Physicobiol., 19, e190022, (2022)
    本研究業績により、”第10回Editors’ Choice Award”(日本生物物理学会)を受賞しました。
  3. “Structural snapshot of the mitochondrial protein import gate”
    ○Araiso Y., Imai K., Endo T.
    The FEBS Journal, 288, p5300-5310 (2021)
  4. “Structure of mitochondrial import gate reveals distinct preprotein paths”
    Araiso Y., Tsutsumi A., Qiu J., Imai K., Shiota T., Song J., Lindau C., Wenz L-S., Sakaue H., Yunoki K., Kawano S., Suzuki J., Wischnewski M., Schütze C., Ariyama H., Ando T., Becker T., Lithgow T., Wiedemann N., Pfanner N., Kikkawa M., Endo T..
    Nature, 575 (7782), p395-401 (2019)
    本研究業績は、金沢大学ホームページの「研究トピック」で紹介されました。
    https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/72523
  5. “Crystal structure of Saccharomyces cerevisiae mitochondrial GatFAB reveals a novel subunit assembly in tRNA-dependent amidotransferases”
    Araiso Y., Huot J.L., Sekiguchi T., Frechin M., Fischer F., Enkler L., Senger B., Ishitani R., Becker H.D., Nureki O.
    Nucleic Acids Res., 42 (9), p6052-63, 2014

代表的な和文総説

  1.  “ミトコンドリアタンパク質搬入ゲートTOM複合体の立体構造”
    荒磯裕平 
    生物物理, 60(5), p280-283 (2020)
  2. “ミトコンドリアへのタンパク質搬入ゲートTOM複合体の構造解析からわかってきたこと”
    荒磯裕平 
    生体の科学, 71(4), p321-326 (2020)

代表的な招待講演

  1. “Molecular dynamics of mitochondrial morphogenesis revealed by high-speed atomic force microscopy”,
    第46回日本分子生物学会年会、シンポジウム “ミトコンドリア研究の新たな視点-1分子動態から多細胞相互作用まで-”、神戸、2023年12月
  2. たくさんの人に支えられて解けたTOM複合体の立体構造
    第1回日本蛋白質科学会 若手の会 研究交流会、オンライン開催、2021年6月
  3. “ミトコンドリアへのタンパク質搬入ゲートTOM複合体の構造と機能”
    日本生体エネルギー研究会 第46回討論会 ブレークスルー講演、金沢、2020年12月
  4. “Structure of the mitochondrial protein import gate reveals distinct protein path”
    第20回日本蛋白質科学会年会 若手奨励賞シンポジウム、オンライン開催、2020年7月
  5. “クライオ電子顕微鏡解析によって明らかになったミトコンドリア膜透過装置の構造と機能”
    第57回日本生物物理学会年会  シンポジウム “What can or cannot do by cryo-EM? The forefront of Structural Life Science”  宮崎、2019年9月

アウトリーチ活動

  1. のぞいてみよう! 細胞の中の小さな実働部隊
    日本科学未来館 トークセッション  2018年10月14日、東京

主な獲得研究費

  1. 平成30年度 日本学術振興会 卓越研究員
  2. 科研費 基盤研究(B)代表者(2020-2022)
  3. JST創発的研究支援事業 フェーズ1(2021-2023)
  4. 内藤財団 内藤記念次世代育成支援研究助成金 代表者(2022-2024)
  5. 科研費 挑戦的研究(萌芽)(2022-2023)
  6. 科研費 基盤研究(B)(2023-2025)
  7. 金沢大学 自己超克プロジェクト(2023-2024)
    参考URL(http://www.o-fsi.kanazawa-u.ac.jp/research/news/?jikochokoku=2023-3)
  8. JST創発的研究支援事業 フェーズ2(2024-2027)

受賞歴

  1. 日本生物物理学会 第10回Editors’ Choice Award(2023年11月)
  2. 第26回日本生化学会 北陸支部 奨励賞(2021年6月)
  3. 令和2年度 日本蛋白質学会 若手奨励賞優秀賞(2020年7月)

研究室からのアピール

2019年に始動した研究室です。細胞内の実働部隊であるタンパク質のはたらきを明らかにしながら、「分子から個体まで」一貫して生命の不思議に迫っていく醍醐味を一緒に味わいませんか?

当研究室にご興味のある方はお気軽にご連絡ください。研究室公式ウェブサイトやSNSでは研究室の様子もご覧いただけます。下記リンクをご参照ください。