長屋聡美
助教(保健学博士)
専門分野
血栓止血学、検査血液学
研究内容
1. 遺伝性血栓性素因・出血性素因の遺伝子解析および病態解析
私たちの研究室(森下・長屋研究室)では、1999年より遺伝性血栓性素因や遺伝性出血性素因が疑われた症例の遺伝子解析を行い、多くの遺伝子変異を同定してきました。さらに、培養細胞を用いて同定された遺伝子変異を有するタンパク質を作製し、それらが生体内でどのような動態を示すのか、タンパク質としての機能が低下するメカニズムを解析し、その病態解明に取り組んでいます。
最近では、プロテインS欠乏症の父性モザイク症例を世界で初めて報告しました。この症例では、通常の遺伝子解析手法であるサンガーシークエンス法では変異が見つからなかったものの、2人の子供が同じ遺伝子変異を有していたため、両親のどちらかにサンガーシークエンスでは検出できない変異があると考えました。そこで、より検出感度の高いデジタルPCR法で解析したところ、父親の末梢血白血球由来DNAにおいて15%程度の変異アレルを検出し、最終的に父親の性腺体細胞モザイク変異による遺伝性PS欠乏症であることが判明しました。
また、最近ではこのデジタルPCRの手法を用いて、発端者のみに変異が同定されるde novo変異が、両親のモザイク変異ではなく本当にde novo変異なのか(両親に変異がないのか)を、exon欠失といった大欠失でも評価できることを確認し、報告しました。
さらに、昨年からは高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を用いた生物物理学的手法との融合研究により、凝固因子のプロトロンビン(PT)がリン脂質二重膜に結合する過程の動的撮影に成功しました。また、この手法を用いて、リン脂質との結合に重要な部位に変異を有する異常PTではリン脂質膜との結合数が低下していることを視覚的に確認することができました。血栓止血学の分野においてリン脂質膜と凝固因子の結合は非常に重要であり、このような融合研究により新たな知見の発見につながるものと考えています。
2. 抗凝固因子プロテインS活性測定に影響する要因の検討
日本人に多いとされる遺伝性プロテインS(PS)欠乏症ですが、当研究室での解析では遺伝子変異同定率は約40%程度と低率に留まっています。このPS欠乏症を診断する上で重要となるのがPS活性値ですが、様々な要因で低下するためすることが知られています。PSにはトロンビン感受性ドメイン(TSR)が存在しており、TSRは複数の酵素で切断されます。当研究室は、PS活性測定用検体の不適切な保存(全血室温保存など)によりTSRが切断され、PS活性が偽低値となることを報告しました。現在は、このようなPSのTSR切断が凝固亢進状態の患者さんの生体内においても生じている可能性を考え、in vitroとin vivoでのPS切断について研究しています。
これまでの研究業績
- Identification of two de novo variants causing inherited antithrombin deficiency by quantitative analysis of variant alleles. Togashi T & Nagaya S, Meguro-Horike M, et al., Thromb Res.2024;233:37-40.
- Functional analysis of two abnormal antithrombin proteins with different intracellular kinetics. Imai Y, Nagaya S, Araiso Y, et al., Thromb Res. 2023;230:18-26.
- Protein S deficiency caused by cryptic splicing due to the novel intron variant c.346+5G>C in PROS1. Nagaya S & Togashi T & Akiyama M, et al., Thromb Res. 2023;229:26-30.
- Identification and functional analysis of three novel genetic variants resulting in premature termination codons in three unrelated patients with hereditary antithrombin deficiency. Imai Y, Nagaya S, Araiso Y, et al., Int J Hematol. 2022;117(4):523-529.
- First report of inherited protein S deficiency caused by paternal PROS1 mosaicism. Nagaya S & Maruyama K, Watanabe A, et al., Haematologica. 2021;107(1):330-333.
- Effect on Plasma Protein S Activity in Patients Receiving the FXa Inhibitors. Terakami T & Nagaya S, Hayashi K, et al., J Atheroscler Thromb.2021; 29(7):1059-1068.
- Evaluation of Optimal Sample Processing Conditions for Accurate Measurement of Protein S Activity. Nagaya S, Araiso Y, Yamaguchi K, et al., Ann Clin Lab Sci.2021;51(2):3-9.
- Genetic analysis of a compound heterozygous patient with congenital factor X deficiency and regular replacement therapy with a prothrombin complex concentrate. Togashi T, Nagaya S, Nagasawa M,et al., Int J Hematol.2020;111(19):51-56.
- Congenital coagulation factor X deficiency: Genetic analysis of five patients and functional characterization of mutant factor X proteins. Nagaya S, Akiyama M, Murakami M, et al., Haemophilia. 2018;24(5):774-785.
研究室からのアピール
私たちの研究室(森下・長屋研究室)では、血栓形成制御メカニズムを解明し、血栓症や血栓によってもたらされる病態を治療・予防することを目的とした研究を行っています。臨床現場(診療・検査)で抱いた疑問を研究によって解明し、その成果を治療法や検査法の開発といった臨床にフィードバックすることを目指しています。また、当研究室には社会人大学院生や留学生もいます!血液・凝固分野の研究やこれらの臨床検査に興味のある方は、ぜひ一緒に楽しく研究しましょう!!いつでも見学にきてください。(写真は2023年度の卒業生・修了生)