教員紹介

杉谷 加代

博士(医学)

研究者総覧

専門分野

神経化学, 生理学, 分子生物学, 病態検査学

研究内容の説明

1)損傷後の中枢神経軸索再生に関与する分子の検索

哺乳類では、中枢神経が損傷を受けると神経細胞はアポトーシスに陥り、最終的に機能不全をきたします。対照的に、魚類では中枢神経軸索の再生が可能であり、完全な機能回復が確認されています。ヒトの場合、脊髄損傷を受けると不可逆的な機能障害が生じるのに対し、魚類では中枢神経の修復が即座に開始され、再生に関与するさまざまな分子が発現し、機能が回復します。

本研究では、遺伝子解析が最も進んでおり、充実したデータベースを備えるゼブラフィッシュをモデルとして採用し、実験的に視神経を損傷させた後に発現が上昇する中枢神経軸索再生に関与する分子を探索しています。ヒトにおける中枢神経再生を可能にするための基礎研究として、再生の時期特異的に発現する分子の特定とその生理的作用の解明を目指します。

2)視神経損傷直後から網膜に発現するトランスグルタミナーゼ 2と山中因子

ゼブラフィッシュの網膜には、視神経損傷後に特徴的な変化が少なくとも2つ存在することが明らかになっています。

一つ目の特徴は、細胞の生存が維持されることです。マウスなどの哺乳類では、神経細胞がアポトーシスを起こし、網膜組織も不可逆的な損傷を受け、最終的に失明に至ります。これに対し、ゼブラフィッシュでは、神経細胞がアポトーシスに陥ることなく生存を続けます。

二つ目の特徴は、網膜の神経細胞が一時的に未分化な状態へと変化することです。ゼブラフィッシュでは、iPS細胞の誘導に必要な山中因子(Klf4, Oct4, Sox2, c-Myc)が自然に発現し、その増加に伴い網膜の神経細胞が幹細胞化します。これにより、新たに形成された神経突起が視神経となって伸長し、3~4週間後には視覚中枢である視蓋へと入力されます。そして、最終的に3~4か月後には視覚機能が完全に回復します。さらに、この山中因子の発現に先駆けて、トランスグルタミナーゼ2(Transglutaminase 2, TG2)の発現がいち早く増加することが明らかになっています。

TGは、タンパク同士やタンパクとペプチドを架橋する酵素であり、翻訳後修飾を担う重要な酵素の一つです。ゼブラフィッシュでは、TGの発現が一過性ながら急速に上昇し、このTG2の発現増加がHSF1および山中因子の発現を誘導することが示唆されました。また、このTG2の発現増加は細胞生存にも強く関与していました(図1,文献1-2)。現在、神経再生とTG発現の関連について、さらなる解析を進めているところです。

これまでの研究業績

  1. Sugitani K, Mokuya T, Kanai Y, Takaya Y, Omori Y, Koriyama Y. Transglutaminase 2 Regulates HSF1 Gene Expression in the Acute Phase of Fish Optic Nerve Regeneration Int. J. Mol.Sci. 2024; 25:9078.
  2. Sugitani K, Mokuya T, Homma S, Maeda M, Konno A, Ogai K. Specific Activation of Yamanaka Factors via HSF1 Signaling in the Early Stage of Zebrafish Optic Nerve Regeneration. Int. J. Mol.Sci. 2023; 23:3253.
  3. Sugitani K, Ogai K, Muto H, Onodera K, Matsuoka A, Sugita T, Koriyama Y. (2019) A novel activation mechanism of cellular Factor XIII in zebrafish retina after optic nerve injury. Biochem Biophys Res Commun. 517:57-62.
  4. Sugitani K, Koriyama Y, Ogai K, Furukawa A, Kato S. (2018) Alternative Splicing for Activation of Coagulation Factor XIII-A in the Fish Retina After Optic Nerve Injury. Adv Exp Med Biol. 1074:387-393.
  5. Sugitani K, Koriyama Y, Sera M, Arai K, Ogai K, Wakasugi K. (2017) A novel function of neuroglobin for neuroregeneration in mice after optic nerve injury. Biochem Biophys Res Commun. 493:1254–1259.
  6. Sugitani K, Koriyama Y, Ogai K, Wakasugi K, Kato S. (2016) A Possible Role of Neuroglobin in the Retina After Optic Nerve Injury: A Comparative Study of Zebrafish and Mouse Retina. Adv Exp Med Biol. 854:671-675.
  7. Kato S, Matsukawa T, Koriyama Y, Sugitani K, Ogai K. (2013) A molecular mechanism of optic nerve regeneration in fish: The retinoid signaling pathway. Prog Retin Eye Res. 37:13-30.
  8. Sugitani K, Ogai K, Hitomi K, Nakamura-Yonehara K, Shintani T, Noda M, Koriyama Y, Tanii H, Matsukawa T, Kato S. (2012) A distinct effect of transient and sustained upregulation of cellular factor XIII in the goldfish retina and optic nerve on optic nerve regeneration. Neurochem Int. 61:423-432. 他

研究室からのアピール

基礎研究ですので、一足飛びに臨床にすぐ役立つことは期待できないかもしれません。

地味ですが、コツコツとしたデータ構築に向け興味を持って下さる方を歓迎いたします。